人にはそれ、永遠の相あり、という。
しかし何時からか、それは封じられ、影として人からは切り離された。
人の持つ生と、影の持つ永遠と。
それは、一つになるべきではないか……
「名演説でしたねえ」
気の無い拍手と無邪気な笑いがどこかちぐはぐな印象を与える。
「思わず納得してしまいました」
背の割合高い女である。骨太の体格のせいか『大柄』という印象が強い。眼鏡をかけた顔は、それこそ角を二回曲がれば一度は見受けられるような平凡なものである。唯一目立つ特徴である長い髪は、後頭部で高く纏められ、そのまま垂らされていた。
「……君の傀儡にされるよりはましだからね」
部屋に入って来た男は、女の顔を見るなり顔を顰めた。
「そうですねえ。首筋に紙を張っておくっていうのもなかなかうっとおしいものらしいし」
とぼけた応えに男は溜息を吐いた。
「叶野、それで今日は?」
「ああ、貴方の喜びそうな話です」
女は組んでいた足を組み替えた。
飾りの無いブラウスとスカート。何故か、この女には女の匂いが無い。女性の持つ柔らかさや艶めかしさなどはつゆほども見当たらない。
「神女が手に入りましたよ」
「ほう」
「禍つ神の封印を解く。その手伝いをしてくれ、ということでやって来るそうです。……ね、間違いではないでしょう?」
「封印を、ね」
男は苦笑した。
「影人の研究の方は?」
「それがうまく行けば、神女なぞに手を出したりしませんよ」
「それもそうだ」
女は椅子の背もたれと背中との間にはさまった髪を引っ張り出しながらくすりと笑った。
「いやまったく、あのお嬢さんどんな力を使っているやら。影人志願者は意欲も充分。その意識を影に導き、融合させる、までは出来たんですがね」
「自意識と記憶の欠落。意欲の低下。従順なのがまだ救いかな」
「後は売られて行くばかり……やれやれ連中もかわいそうに」
しみじみと誠意の無い言葉である。
「あの、影猫が無ければな」
男の目に、奇妙な光がちらついた。
「あれは唯一の成功例。偶然かもしれないが、再現可能な偶然かもしれん」
「永遠を汝の手に」
からかうように言った女を、男はきつい目で見やった。
「そんな顔をしないでくださいよ、義兄さん。私も姉の為を思って手伝っている訳ですからね」
「……ふん」
「姉さんは相変わらずですか?」
「ああ……ところで」
「はい?」
「影人のほうは大丈夫か? あれを放ったはいいが、こちらに使われては堪ったものではない」
くすくす、と女は笑い出した。
「……大丈夫ですとも。それくらいは考えてますよ」
「誰も彼もが君のような異能者ではないからね」
「大丈夫ですってば。私も下手な奴等に直実と清姫を使いたくはありませんから」
「そうか……で、そういえば神女はいつこちらに?」
「明日か明後日になるそうです。一族の処理がややこしいとかで」
「まさか」
「まあ、必要最小限のことでしょう」
さらさら、と女は言い、笑った。
「ご安心を、義兄さん」
部屋から男が出ていってしばらくの間、女は身じろぎもせず、椅子に座り続けていた。
「清姫」
ふと、その口から低い声が漏れた。
「首尾は」
「上々に」
声は彼女の背後から聞こえる。
「見せて……いや、いいや。せっかくの楽しみだ」
眼鏡を取ると、女は一つ伸びをした。
「清姫、お嬢ちゃんのところにまた居候が飛び込んだって?」
「はい」
「お嬢ちゃんも物好きな。守るものが増えれば増えるほど律義に守る性質のくせに」
「如何様に?」
「そのまま」
あっけらかん、とした口調である。
「お嬢ちゃんはどちらにしろ逃げられない。……でも不運だったら無いね」
くつくつ、と笑いが宙を舞う。
返事はどこからも無い。
「不運だ。私はあのお嬢ちゃん好きなのに。何て言っても美人だ。ついでに恐ろしく気が強い」
「如何様に」
「そのまま」
女は顔を上げた。笑みのこぼれる顔は、何故かしら背筋の寒くなるものがあった。
「しかた、ないよね。……せめて楽しんでさし上げようほどに」
くっと笑った顔は、その時確かに鬼面と化した。
http://kataribe.com/HA/14/C/HAC14_23.TXT 傀儡使い:叶野紗耶(かのう・さや)
の紹介ストーリー。影と化して、死を超克することを目的とする秘密結社である『裏影社』の長が、木崎野枝実と鬼李にたいして本格的な動きを見せる、その背後での動きを描いたオープニングシーン的な内容です。
紗耶の配下のくぐつ http://kataribe.com/HA/14/C/HAC14_32.TXT 傀儡:清姫(きよひめ) http://kataribe.com/HA/14/C/HAC14_33.TXT 傀儡:直実(なおざね)
のうち清姫も登場していますね。