殺風景な白い病室。固いベッドの上に白衣の女性が座っている。その膝の上に、三才ぐらいの男の子を乗せている。
「おかあさん……おかーぁさんっ」
「どうしたの? 晃一」
「ふふふ、おかーあさん、だーいすき」
私の膝の上、晃一は小猫のようにじゃれついてくる。……三才の子にしては少し、母親に甘えすぎのような気がする、……でも、しょうがないことかもしれない。
こんなに周りから隔離された育ちかたをしているのだから……。
「ねぇ、きょう、しゅじゅつなの、しゅじゅつこわいの?」
「……手術ね、いいえ、恐くないのよ、大丈夫よ。ね、晃一は強い子でしょう?」
手術、そう、今日は手術の日だ。超能力増幅のための強化手術。
人為的に体の自由を奪うことにより、自己の能力を高める。簡単に言えば。声が出せず、思いを伝えられないから、心の声で語りかける。自分の足で歩けないから念動の力で移動する。
話したい……歩きたい……これらの思いが、不自由さが、より超感覚の鋭さに磨きをかける。
強化手術の一環。肉体的損失。
単純な理論だ。……しかし、それが晃一にどれほどの苦痛を与えることだろう……何も知らずに、私の腕の中にいる。なにもかも私に依存しきっているこの子に……。
……晃一……
あなたのことがいとおしくて……望んで……産んだ子じゃないのよ……。あなたは……あの人にとっては、研究の成果をためす実験動物と同じ……。私にとっては、あの人の心をつなぎとめるための道具にすぎなかったのよ。
あなたに慕われる資格は私にはないのよ……
「? おかあさん……」
……許して……
何もかも、あの人に捧げてしまった……私を……
積み重ねた人生も……人としての心も……そして……なんの罪もないあなたも……今……。
「おかあさん?」
「……ああ、どうしたの……晃一」
「あのね、おかあさん。ぼく、しゅじゅつ、がまんするよ。ぼく、つよいもん」
屈託のない笑顔。おもわず目をそらした。あやうく涙がこぼれそうになる。慌てて取り繕った微笑みを浮かべ、晃一の頬をなでる。
「……そうね、いい子ね。晃一……」
「うん、おかあさん。ぼく、いい子にしてるよ」
……ぼく、いい子にしてるよ……それが私の聞いた……晃一の最後の声……。
時間が来た。無表情な研究員の手でベッドを移され、手術室へ……運ばれていく。手術室の前、ドアが閉まり、赤いランプがともる。
「あ……」
膝をつき、そのまま手術室のドアに崩れ落ちる。涙がつたい、鳴咽がもれる。冷たいドアの感触、赤いランプの光が泣き崩れる私を照らす。
「許して……許して……晃一……ゆるして……」
手術室の赤いランプが薄暗い廊下を不気味に照らしている。
泣き続ける、ずっと……。罪の意識と、子供を奪われる悲しみに苛まれながら……。