エピソード10『もう少し、気ままに……』


目次


エピソード10『もう少し、気ままに……』

12月初旬

バンド

12月の初旬、北風が本格的な冬の到来を知らせ、人々は暖かさを求め彷徨う。そんなある日の出来事。
  放課後の西生駒高校、すっかり日も暮れ、学校はしばしの眠りに入ろうとしている。

土不要 孝
「基史、今日暇か? 飯食って帰ろうぜ」
間柴 基史
「(時計を見ながら) えっ、もう7時か、やばい練習に遅 れる」
「あぁ、おまえまだあのバンドしてるのか?」
基史
「好きなのよ、生きてるうちにいろいろやっておきたいだ ろう?」
「なんだそれ、おまえ熱でもあるのか?」
基史
「(少し照れながら) いや、なんでもない。ごめん。練習 にいくよ。(原チャリに乗って去っていく)」
「おーいっ、あぁ、(バイクを触りながら) あっためるの がめんどうだね……」

  繁華街を少し離れた所にたつビルの地下2階。
  ライブハウス”Over the Light”。
  黒のスーツに着替えた基史がベースを担いで入っていく。
バーテン
「よぉ! 基史。おはよう、忍以外はそろってるよ」
基史
「どうもです」

  しばらくして……赤みがかった髪の男が丸いグラサンをして入ってくる。
筒井 忍
「いやぁ、学校がラッシュでなかなかのれなくて……」
基史
「あのね、なんで学校が込むんですか。それに同じ学校で しょう、あなたと私は」
「えーいっ、そんなことはどうでもいい。開店までの時間 しか練習できないだぞ」
基史
「みんな、向こうで準備してますよ」
「よぉーし、俺様の歌を聴かせてやるぜ」

  2時間ほどたった頃、数人がライブハウスから出てくる。
「なぁ、おれらってまともにやったら絶対いけるぜ」
基史
「私は月に一回のライブでいいよ、それにあなたも学校で もやってるし本気ならどれかに絞った方がいいよ」
「そうかもな、でも……」
基史
「(人通りを見ていて……) 悪いけど用事ができたような んで、お先です」
「おまえねって、こらっ」

夜の帰宅

クリスマスの風景に彩られた街の中、人混みの中に飛び込んでいく基史の姿があった。
  大阪南の某予備校からの帰り道、ぱらぱらと高校生達が帰っていく……。

草峰 奈恵
「(マフラーを結び直しながら) もう、わからないところ があるのならもっと早く言ってくれればいいのに……」
友人
「ごめんって。今度ドーナツでもおごるから(にこにこ)」
奈恵
「別にそんなことを言っているわけではないけど……」
友人
「気にしない、気にしない(にこにこ)」
奈恵
「さっきから、何を笑っているの?」
友人
「別になにも……(言いながら奈恵の後ろを指さす)」
奈恵
「えっ?(何気なく後ろを振り向く)」
基史
「(後ろで戯けながら) はーい、お嬢さん今暇?」
奈恵
「(あっけにとられって) まっ、間柴さん! どうしたん です」
友人
「おじゃまかしら(にこにこ)  それじゃ、私は南海だか ら……」
奈恵
「あっ、行ってしまうの?(少々慌てる)」
友人
「ばいばーい、また来週ね(小走りに去ってゆく)」
基史
「気を使わせましたね」
奈恵
「そのようですね、別に気にしなくてもいいのに……」
基史
「(ちょっとは気をつかってほしい……)そうですね」
奈恵
「それでどうしたんです?(時計を見ながら) こんな時間 に。もう10時ですよ」
基史
「(それを言うならまだ10時だと……) いえね、この近く で今まで練習していたんですよ(背中のベースを指さす)」
奈恵
「あら、間柴さんでも何かに一生懸命になることもあるん ですね」
基史
「そんなに一生懸命というわけでは……」
奈恵
「そうですよね、なんかいつも適当にやっているみたいで すもんね(少々嫌味っぽく)」
基史
「(これはまずい) あっ、そうだ。これからどこかいきま せんか? どこでもつれていけますよ」
奈恵
「詳しいんですね、まだ16歳なのに。一昨年まで日本にも いなかったんでしょう?(やや訝しげ)」
基史
「(これはもっとまずったかも……)いえ、別にそういうわ けでは……」
奈恵
「せっかくのお誘いですけど、両親が心配しますので、今 日は帰りましょう」
基史
「(やっぱり、まずったね) そうですね……」

  2人で近鉄難波駅に向かって歩き出す……

黒衣の男

そのほぼ同時刻、西生駒近郊の廃屋の庭で数人が集まっている。

黒衣の男
「よいか、ねらいは小娘一人。しかも、どうやら一人では 満足に術も操れんらしい(周りを見回し) ぬかるなよ」
一同
「(畏まって)御意!」

  その黒衣の男を取り囲んでいた一同は闇にとけ込んでいった。
  それから数十分後、西生駒の駅前(どこかしらん?)。駅前のロータリーには既に止まっている車もなく、時間までもが静寂に包まれているよな風景が広がっている。
鷹司 彩華
「もう、なんで時間通りに迎えに来てくれないのかなぁ、 寒いし、タクシーはないし、歩いて帰るのもイヤだし……何か飲んでまってようかな(暖かい飲み物を探してうろうろする)」

  しばし、駅前をうろつきまわる。
基史
「(あーあ、駅に着いちゃったよ、この辺って店閉まるの 早いんだよな) 奈恵ちゃん、何か飲む? 寒いでしょう」
奈恵
「結構です、早く帰りたいし」
基史
「(やっぱりね……) そうですか、それじゃ途中まで送り ますよ、この辺は人も少なくて物騒ですから」
奈恵
「そうですか……それでは途中まで一緒に帰りましょうか」
基史
「そうしましましょう」

  少ない明かりの中、2人で国道の方に歩き始める……
彩華
「(自動販売機発見) あった、何にしようかな……。あっ、 これにしようかな、ホットコーラ。いいネタになる(ニヤリ)……はっ、私は何を考えてるの……やっぱりココアにしよう」

  駅を見渡せるビルの陰から……
男A
「目標を発見しました。国道の方に向かってます」
男B
「了解」

  国道を少し離れた商店街、すっかり静まり返った中を彩華の存在に気付かず歩き続ける基史と奈恵。
基史
「この時間になると、ビデオ屋以外開いてないもんですね」
奈恵
「でも、駅前のコンビニも開いてましたわ」
基史
「いやぁ、そうですけどね(勝手が違うので戸惑っている)」
奈恵
「人通りが少ないのはその通りですけど……」
基史
「うん?(急に立ち止まる)」
奈恵
「どうしました?」
基史
「いえね、どうやら少し騒ぎたい人たちもいるようですよ」
奈恵
「(きょろきょろ周りを見回す)」
基史
「(視線を配りながら)ねぇ、鬼ごっこならやめましょう。 私達もひまじゃないんで」

  辺りの闇から不気味な仮面を被った男達が現れる。
男B
「勘はいいようだが、運がなかったな。その女だけが目的 だったんだがな……」
基史
「(にっこり微笑みながら) あなた方は運もなければ、頭 も足りないようですね」
男B
「(両手に鎌のようなものを持って構える) それは数分後 にはわかるだろう」

  無表情な仮面の下で氷のような視線が2人を射抜く、まるでそれが合図だったように男達は一斉に動き出した。
基史
「(奈恵にむかって) ちょっと、さがてってください。危 ないかも」
奈恵
「大丈夫で……あっ!」

  2人の左右に構えていた男達が襲いかかってくる。その2人から奈恵を庇うように間に割り込む基史。
  左の男がまわり込むように首筋に蹴りを繰り出す。
基史
「(その蹴りを受け流しながら) 甘いよ、そんなんじゃ。
……うわぁっ!」

  蹴りを受け流す瞬間を狙ったように、右の男の足払いが基史を襲っていた。
  それをまともに受けた基史の上に左から鎌が襲いかかる。
基史
「(鎌を転がり避け、距離をとる)神楽の舞のような格好し て、いい加減にしてくれ」

  男達はなおも沈黙のまま、構え直す。
基史
「(なんとか奈恵ちゃんだけでも逃がさないと……)」
男B
「時間がない、殺してかまわん」

  僅かな光の中、悠然と男が言い放った。
基史
「(だめだ、この人たち本職だね)」

  基史は姿勢を低くしたまま、人差し指と中指を親指と重ねるようにして構え直す。
  再び男達が動き出す。一人の男が大きく跳躍し、それにあわせるようにもう一人が鎌を投げつけた。
基史
「遊びはやめたっと」

  次の瞬間、基史の体は鎌をすり抜け、男の間近に迫っていた。一瞬の事に男は鎌を投げた姿勢のまま、自分の油断に気付き必死に守りに入ろうとした。
  しかしその時、既に基史の右指が男の眉間に突き刺さっていた。
基史
「ふっ、修行が足りないんじゃないか」

  鈍い音と共に木製の仮面が割れ、男の体は崩れていった。
奈恵
「きゃあっ、ちょと……」

  目標を失ったもう一人の男が奈恵に向かって襲いかかる。
基史
「逃げろ!」

  その声がとどいたのか、奈恵は商店街を駅の方に向かって走り出した。その後を追う男に向かっていこうとする基史に後ろから冷たい声が響いく。
男B
「おまえの相手は俺がしよう」
基史
「これじゃ、逃がした事にはならないよね」

  同時刻、駅前にて。
彩華
「なんか騒がしいな。喧嘩かな?」

  ココアを片手に商店街の方を眺めていた彩華の目に奈恵の姿が映った。
彩華
「お姉さま! どうしたの?(奈恵の方に走り寄っていく)」
奈恵
「それが突然で何がなんだか……」

  2人の後ろから不意に
黒衣の男
「説明してやろうか、馬鹿どもが相手を間違えたのだよ。 彩華嬢、我々の目的はあなただ」
彩華
「はぁ?」

  奈恵を追っていた男が追いつき彩華達を挟むように立ちふさがる。
黒衣の男
「1000年に及ぶ因果を断ち切るために、我々は再び挑戦す る。そのためにはあなたが必要なのです」
彩華
「(きょとんとして)あのぉ、何の話なんでしょうか?」
黒衣の男
「鷹司の名をもつ以上避けては通れぬ道があるのですよ。
あなた方一族が行った行動は精算されるべきなのです」
彩華
「いきなり、そんな事言われても……」
黒衣の男
「これから理解すればいい。そのくらいの余裕はあるだろ うから。さぁ、我々と共に……」
彩華
「いやですよーだ(べー)」
黒衣の男
「(急に優しい顔になって) あなたを殺したくはないので す。できればですが……」
彩華
「わたしを? こう見えても伝承者の端くれですの、あな た方には遅れをとりませんわ」
奈恵
「あのぉ……」
彩華
「なに? 、お姉さま」
奈恵
「(商店街を指さしながら) あちらで間柴君が力一杯やら れてましたけど……」
彩華
「へぇ? ……(気を取り直して) 私をあんな顔だけが取 り柄の人と一緒にしないことです」
黒衣の男
「いいでしょう。少々痛い目にあっていただきましょう」

  そう言うと、男の両手から針金のようなものが無数に投げ出された。
彩華
「お姉さま、離れて(奈恵を引き離し、自分も大きく避ける)」

  無数の銀光が彩華達のいた場所を通過してゆく。
彩華
「(余裕の笑顔で) もっと良く狙ったら」
黒衣の男
「誤解しないでください。あなたの相手は彼がします。(彩 華達の後ろを指さす)」

  彩華達が振り向いた所には、さっきまで確かに男がいた。しかし、今そこにいるのものは既に人間ではなくなっていた。それは近くに止めてあった車を取り込んで融合し、新たな命を得ていたのだった。
彩華
「なんか……いやぁ」
黒衣の男
「では、がんばってください(10数メートル後ろに下がる)」
彩華
「私には役不足かもよ(あーん、どっかに武器になるもの ないかな)」

  その頃、商店街では……。
双鎌使い
「さっきの勢いはどうした、小僧!!」

  男の鎌が基史の服を切り刻んでゆく
基史
「ちょっと、まった。武器は卑怯ですよ(防戦一方)」
双鎌使い
「別に卑怯なことは嫌いじゃないんでね」

  首もとに斬りつけられた鎌をのけぞるように避けた基史の脇腹に男の蹴りがたたき込まれた。受け身もとれずにまともに吹き飛ばされ、電柱に叩きつけられる。
双鎌使い
「おや、今ので肋骨2、3本いったかな」

  何とか起きあがりながら、真顔になって
基史
「(うぅ、だめだ。お腹いたいよー) 別に私はSMに興味は ないんでね。格闘ゲームはご辞退しますよ」
双鎌使い
「何をいっている。早くあの娘を追いかけねばならんので な、そろそろ死んでもろおう(鎌を振り降ろそうとする)
……うん?」

  基史をめがけて振り下ろそうとした鎌が凍り付く、驚愕の声を上げる男の周りを時空の流れが取り囲んでいた。
双鎌使い
「こっ、これは。体が動かない」
基史
「それは残念ですね。勝負を急いでるんでしょう? 終わ りにしましょう」

  基史は右手を軽く挙げそのまま男の方向に振り下ろした。その瞬間、透明な空間の亀裂が男に向かって広がっていく。
双鎌使い
「何だ、これは……」

  透明な亀裂が男を包んだとき、男の体にも数十の亀裂が生み出されていた。
  その亀裂からは血が吹き出すこともなく、辺りは静寂のままだった。
基史
「裂空次元刀(ディメンション……ブレード)っていうんで すよ。ネーミングはあんまり好きじゃないんですけどね……」
双鎌使い
「(崩れ落ちながら) ひっ、卑怯な!」
基史
「(にっこり笑いながら) 別に卑怯なことは嫌いじゃない んでね」

  人外の生物に対峙した彩華はその存在をはかりかねていた。
彩華
「(こいつっていったい? 完全に融合して一つになってる。 あの表面を素手で砕けるのかしら……)」

  車との融合を果たした男がゆっくりと動き出した。その動きを察知した彩華は先手を取ろうと素早く動き出す。
彩華
「(あの構造からすれば基本は人間のはず……)」

  一気に武装獣との間をつめ、左腕の間接を取りにいく。
彩華
「えぃ!(かけ声と共に腕を捻ろうとする)」

  相手の腕を勢い良く取ったまま彩華の動きが止まった。次の瞬間、今度はその腕に引っ張られるように彩華の体が宙を舞った。
彩華
「痛ったーい(パワーが全然違う、このままじゃ……)」

  叩きつけられた地面からなんとか立ち上がる彩華。その場所に武装獣の拳が突き刺ささり、舗装された地面が轟音をたて飛び散る。
彩華
「これは騒ぎになりそうね」

  その獣の後ろに着地し、呟く。破壊された地面の破片が飛び散り、辺りのものをも破壊していた。
奈恵
「(離れて見守りながら) 彩華さん、大丈夫なの?」
彩華
「大丈夫ですよ(ひきつった笑い)」

  獣との距離をとり、辺りを探る。
彩華
「(やっぱり、素手じゃ無理そうですよね) うん?」

  彩華の目が改築中のビルにとまる。獣に一瞬視線を向けるとそのままそのビルに向かって走り出した。
彩華
「鬼さん、こちらですよー(走りながら叫ぶ)」

  その声につられるように武装獣も走り出した。
  目的のビルに着いた彩華はその中に入り込んでいく。十数秒後、その後を走り込んできた獣が辺りを見回し、彩華を探し回る。
彩華
「ご苦労様でした。さて坊や、そろそろお休みの時間です よ」

  笑みを浮かべた彩華の左手には、工事用の鉄パイプが握られていた。
  その言葉を理解できたかどうか、獣は咆哮をあげ飛び込んでいく。
彩華
「(鉄パイプを上段に振り上げ) 真古陰流奥義、地鳴斬!!」

  鉄パイプが大きく振り下ろされた、大地が共鳴を起こすように大きく震える。
  その衝撃波が地をはうように獣の体に襲いかかった。巻きあげられた土煙が獣との視界を一瞬遮る、彩華はそれを気にもしないでさらに走り込んでいく。
彩華
「(今の手応え、たぶんまだ……やっぱり鉄パイプじゃ、 いまいち威力が落ちるみたい)」

  薄れてゆく煙の中で彩華が見たのは地面に膝をつき、なおも戦おうとしている獣の姿だった。
彩華
「(こいつ、痛みを感じないのかな。でも……)」

  自らの体が崩れだす中、獣は彩華に向かって拳を振り上げた。
彩華
「真古陰流秘奥義、絶招……鬼破刃!!」

  すでにその勢いを失っている獣の拳を難なく避け、その体に鉄パイプをたたき込んだ。獣の2メートルにも及ぶ巨体が数十メートル吹き飛び、そのまま動き出すことはなかった。
  技の衝撃で粉々になった鉄パイプを捨て、彩華は獣に駆け寄っていった時、大地に突き刺さるように倒れた巨体は所々から溶解し始めていた。
彩華
「これはいったい……」

  獣の残骸をじっと見ていた彩華は、思い出したかのように振り返り、奈恵の姿を見つけると
彩華
「(Vサインをしながら)ぶい!」

  笑顔の中にどこか釈然としないものを感じている彩華だった。
黒衣の男
「(拍手を送りながら) すばらしい、あなたを甘く見てい たようだ。歴代の継承者にも劣るとは思えませんね」
彩華
「(男に向かって)いったいなんのつもなの? それにあの 獣はいったい?」
黒衣の男
「チャンスをあげましょう。私を倒してみなさい。そうす ればすべて教えてあげます。まぁ私と共に来ていただいてもお教えしますけど……どうします?」
彩華
「ぶっ飛ばす」

  中指を立てた右手を奈恵に押さえられながら叫んだ。
黒衣の男
「勇ましい方だ。しかし、素手で向かってくるつもりです か? それともまた鉄パイプを拾いに行きますか?」
彩華
「それは……」
黒衣の男
「(ふと閃いたように) そうだ、鷹司の人に返さなければ ならないものがあったんです」

  男はそう言って、背中から一振りの太刀を取り出し放り投げる。
彩華
「なんなの?」
黒衣の男
「それは鳳嘴刀(ほうしとう)と言うものです。元々はあな た方継承者が使っていたものですよ」
彩華
「それを何故あなたが……」
黒衣の男
「話は後でしますよ、さあ、どうぞ」

  男は彩華の前で身動きせずに待っていた。
彩華
「(どうせ、素手じゃ無理だわ) 後悔するかもよ」

  その太刀を拾い上げながら言う。
黒衣の男
「あなたがね」

  太刀を手に取った彩華はそれがいかなるものかを感じ取っていた。今までそれを手に戦ってきた人々の思いが心に流れ込んでくる。その思いには明確なものはなく、ただその意志だけが強かった。
彩華
「これは……暖かい思いが……懐かしい」

  彩華はしばしその感覚に酔っていた。
黒衣の男
「わかりますか? それを継承していった人々の思いが」
彩華
「(我に返って) 何、何が言いたいの」

  少しいらだたしげに彩華が叫んだ。
黒衣の男
「先ほどから感じているでしょう、その剣はあなたがた鷹 司の伝承者が代々使っていたもの。そしてあなたがその剣から感じ取っている懐かしさは……」
彩華
「(はっとして) まさか、兄さんが……この剣を兄さんが 使っていたの?」
黒衣の男
「(ニヤリ)」
彩華
「何とか言いなさいよ」

  遠くから警察のサイレンが響いてくる。
黒衣の男
「(音の方に目を向け)どうやら、遊びがすぎたようです。 出直しますよ」

  男はそう言うと懐から小瓶を取り出し中身を辺りに振りまいた。
彩華
「待ちなさい、まだ話は終わってないのよ」
黒衣の男
「失礼、彩華嬢。またすぐにお会いできます」

  男の体が薄れていく……その男に向かって剣を構え、飛び上がる彩華。
彩華
「殺しはしない、でも行かせない。 真古陰流秘奥義、絶 招……鬼破刃!」

  叫び声と共に振り下ろされたその剣がその目標にとどくことはなかった。
  剣が生み出す風圧までもかき消されていく。
彩華
「なに?」
黒衣の男
「絶対領域です、この空間で物理攻撃は無意味ですよ」

  男はそう言うと笑顔を浮かべながら消えていった。
彩華
「(呆然としつつ) 待ちなさいよ!!」

  ただの空間になったその場所に向かって、彩華は叫び続けていた。
奈恵
「彩華さん、騒ぎになりますわ。ここはいったん……」
彩華
「(涙を浮かべながら) お、お姉さま……」

  泣き崩れる彩華を支えながら奈恵は歩き出した。

2月末

口説き文句

2月末、間近に迫った学年末考査のため高校生は何かと忙しい。

基史
「本当だよ、僕が好きなのは君一人」
「信じていいの? 、だって私は……」
基史
「10歳ぐらいの年の差がなんだって言うんだい? それに 今は年上女性とつき合おうのは珍しいことじゃないでしょ」
「本当?」
基史
「ばかだなぁ」

  微笑みを浮かべた基史が、涙目の女の唇をそっとふさぐ。
「間柴君……」

  女の腰に腕をまわしながら、
基史
「それより、頼んでいた物は?」
「えぇ、あぁ……はい、これ」

  女はバックに手を伸ばすとその中から数枚のプリントを取り出した。
「これが今度の英語と数学の試験問題、あぁ、英語はいら なかったかしら(笑)」
基史
「いいや、ありがとう」
「じゃ、私はもう帰るわ。また今度」
基史
「あぁ、また(おばさんは扱いやすい(笑))」

  手渡されたプリントを無造作に机の上に置くと、部屋の鍵を手に取った。

ショットバーにて

とあるショット・バー、今の流行をおうように Me & My の曲が流れている。

マスター
「よぉ、未成年(笑) 今日は一人か珍しい(笑)」
基史
「篁さん、そんなにもてるわけないでしょう」
マスター
「(にやにや笑いながら) そうだね、そうしとこう」
基史
「それより、ジントニックを」
マスター
「今作ってるのがそれ」

  そういうと篁は基史の前にコースターを置いた。
マスター
「で、お客さんももうすぐ来るはずだよ」
基史
「今度は女の人?」
マスター
「残念でした。コウ・ヌーレンブルグ、男だよ」
基史
「ちぇ(笑)」
コウ
「すいませんね、男で」

  そこには長身の男が立っていた。室内のぼんやりとした明かりの中で、その長髪は栗色に光っていた。
基史
「おぉ、びっくりした」 
コウ
「ご冗談を(笑)」
基史
「わかってた(笑)で、わざわざCIAなんて物を通じてまで 僕と連絡を取りたかったわけは?」
コウ
「失礼、改めて。私はコウ・ヌーレンブルグ、魔導師協会 の者です。鷹司家のことについてお聞きしたいことが」
基史
「はぁ、なんですか」
コウ
「まずはこの写真を見て下さい」

  差し出された写真には黒づくめの男が写っていた。
基史
「誰ですか? この人」
コウ
「ご存じありませんか。ではこちらは」

  男の写真の上に重ねるように出された写真には、木製で奇妙な文様が刻まれた仮面をつけた人物が写されていた。
基史
「これは……以前見たことがあります」
コウ
「そうですか、彼らは烈鬼衆と呼ばれています。そしてこ ちらの男が現在の彼らの頭領です」
基史
「どうゆことですか」
コウ
「この男の名は小鳥遊清流(たかなし・せいりゅう)。
英国で少なくとも11人を殺しています」
基史
「そんな奴が私となにか関係があるんですか」
コウ
「あなたと直接関係があるわけではありません。しかし、 清流が今度ねらっているのはおそらく鷹司彩華、あなたのご学友です」
基史
「はぁ?」

鷹司家にて

同日、鷹司家。

おばあちゃん
「そうかい、この剣を生きてる間に見ることができようと は……」
彩華
「この剣はいったい……鷹司家と何の関係があるのでしょ うか?」
おばあちゃん
「この鳳嘴刀は、古の時、我らの先祖が用いた神具だと聞 いている。それに、ある魔物を封じるための塚として使用されていたとも」
彩華
「おばあさま、それではこの刀がどうしてここにあるんで
すか」
おばあちゃん
「考えられることは、その刀は働きを終えて帰ってきた。 もしくは無理矢理働きを終えさせたれた、ということかな」
彩華
「でも、この刀にはお兄さまの念がこもってました。状況 から考えてお兄さまが消息を絶ってからこの刀をお使いになったとしか」
おばあちゃん
「うむ。どちらにしても先日おまえさんが襲われたという 話、軽く見ていてはいかんようだの」
彩華
「はい」

生徒会、動く

翌日、西生駒高校

基史
「どうしようか、彩華ちゃんにはちゃんと話した方がいい と思いますか」
奈恵
「そうですね、彼女も自分がなぜ狙われるのかわからない のは不安でしょう。話してあげた方がいいのでは」
基史
「そうしましょうか。ところで、今日はみんな集まるんで すか」
奈恵
「ええ、そのつもりです」
基史
「じゃ、その帰りにでも話しますよ」

  昼休み、同校食堂内
 
彩華
「全く、何で私がおそわれなきゃいけないのよ、いくらか わいいからたって」
沙霧
「ほんとにまぁ、そんなこと言ってられるのなら大丈夫よ」
彩華
「まあね、元気は元気だよ」
沙霧
「とりあえず、今日は会長の所にいく日だし、みんなに相 談したらいいじゃない」
彩華
「あのね、あそこで相談したらあの神有月凶一郎にも知ら れるのよ、そうなったら今までより大変なことになると思うけど」
沙霧
「そりゃそうか」

間柴対清流

放課後 間柴が生徒会室に向かう途中、突然通路が闇に包まれた。

清流
「少年、怪我はもういいのかな」
基史
「これは、これは、殺人鬼さん。あなたもお元気そうで」
清流
「ふぅ、言ってくれる」
基史
「魔導師協会の人に話は聞いたよ、彩華ちゃんとあんたの 復讐は関係ないだろ」
清流
「彩華嬢は今や鷹司家の筆頭、私には彼女の血が必要なん でね」
基史
「彼女にはまだそんなたいした存在じゃないだろう」
清流
「そう、だからまだ殺しはしない。だが、彼女が自らの力 に目覚めるのもそう先のことではないだろう」
基史
「そうなれば彼女を殺すのかい」
清流
「そうだといったら」
基史
「ここでおまえを殺しておく」
清流
「ふっ、言ってくれるな……よかろうチャンスをやろう」

  あたりの空間が歪んでゆく、先ほどまでの闇が一段と深さを増し、二人の男を包んでいった。
基史
「閉じこめるつもりか、無駄なことを」
清流
「そんなことは考えてない、無関係な人を巻き込みたくな いだろう。サービスだよ」
基史
「それは、それは、ありがたくて涙が出るよ」

  そう叫ぶと清流の前にフェイントの蹴りを繰り出し、続けて腕を掴みにいった。
基史
「何?」

  基史の腕が清流を掴もうとした瞬間、その腕は清流の体をすり抜けていった。
清流
「言い忘れたが、この空間はいわば私の幽閉空間でね、こ の中では私の意志が優先される」
基史
「あぁ、今のでだいたい理解した」
清流
「ほぉ、なかなか物わかりがいいな」
基史
「今の空間の歪み方、法則もだいたいわかるよ」
清流
「くわしいな、いったい……」
基史
「部下に聞けなかったのかい?」

  その声と同時に清流の周りの空間に無数の空間の歪みが生み出された。
清流
「こっ、これは、そう言えばなにやら鋭利な刃物で切り刻 まれた奴がいたが……」
基史
「話の続きはあの世でしなよ」

  清流の周りを凄まじい空間の流れが覆い尽くしていく。
清流
「……」
基史
「Good night,Baby」
   
  まわりの空間が普段の風景に戻っていく、空間の澱みが生んだ白い煙が辺りをおおっていた。
基史
「まぁ、こんなもんかなって……」

  薄れていく煙の中、基史の前方に人影があった。
   
清流
「最近、不眠症なんで。なかなか寝れないんですよ」

  唇をゆがめ、冷笑を浮かべる清流の姿がそこにあった。
基史
「そいつは大変だ、帰って医者にでも言った方がいいんじゃ ないかい」
清流
「心配ご無用です、用事が済めばすぐ帰ります」
基史
「彩華ちゃんには手を出させないぞ」
清流
「彼女には手出しをしないよ、今はね。とりあえず……」

  清流の腕がなめらかな線を描く、その指にはめられた宝石が鈍く輝く。
清流
「あなたへのささやかなプレゼントです」
基史
「ぐぅわぁー、って……」

  とっさに体をずらした基史の腕に数本の光が突き刺さった。
清流
「やっぱり、たいしたもんだ。殺すのは惜しい」
基史
「じゃ、殺すのは止めて」

  苦痛に歪みながらも笑顔でかえす。
清流
「大丈夫です、あなたの死は無駄にはなりません。彩華嬢 の成長には隣人の死が近道なのですから」
基史
「やっぱり、あんたは危険だな。とりあえず……」

  生徒会室前の廊下、
沙霧
「いまなにか変な感じがしなかった?」
彩華
「あんたも、もしかして……。なんなのこのプレッシャー は」
沙霧
「強い力、そして殺意。これって……」
彩華
「この感じは……」

  突然走り出す彩華、
沙霧
「彩華、ちょっと」

  廊下の中の大気が舞う、基史はにじみ出る血を気にした風もなく清流にむかっていった。
基史
「清流、ここであんたは死んどいた方がいい。ただのエゴ だけど見知らぬ他人より、知ってる知人が傷つく方がいやなんでね」
清流
「立派な考えだよ、君は私に似ているのかもな」
基史
「続きはあの世でしようぜ、あったらだけどね」

  基史の瞳が清流を見据えた。
基史
「うけてみろ、次元刀の真の力を」

  #この続きがないのか?

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