エピソード6『更毬朱美&剽夜の仕事風景』
- 更毬朱美(さらまり・あけみ)
- 符術使いの女子高生。剽夜のいとこ。
- 更毬剽夜(さらまり・ひょうや)
- 妖しい理論魔術師の理系大学生。
- 豊秋竜胆(とよあき・りんどう)
- 通称あきりん。剽夜の別宅の主。
それは日常的な冬の昼過ぎであった。寒さ厳しい折、更毬剽夜は暁工科大学前の通りを物思いにふけりながら歩いていた。
- 剽夜
- 『さて、今日は木曜日だな。楽しい楽しいエヴァの日(*1)
だ。今週はどんなラブリーな使徒が出るのかなっ。楽しみだな。とりあえずあきりんに電話を入れるか……』
- 女の声
- 「剽夜兄ちゃんっ」
公衆電話に向かう剽夜にかけられたその一言は、剽夜を非日常へと誘う言葉であった。剽夜が振り向くとそこには三つ編みを両側にたらした高校生ぐらいの女の子が立っていた。
- 剽夜
- 「おや、朱美どうしたんだい?」
- 朱美
- 「えぇとね。今日お仕事があるの。それでね。剽夜兄ちゃ
んが、今日あいてるのを思い出して手伝ってもらうために来たの」
- 剽夜
- 「私には大切なエヴァを見るという用事があるのだが……」
剽夜のかわしの台詞に朱美は腰に手を当てて、前屈みでちょっと怒ったような顔をしながら言った。
- 朱美
- 「もおっ、当代代行(*2)として代行補佐(*3)に命じます。
本日代行の仕事を助けるように」
- 剽夜
- 「はっ、了解いたしました代行」
- 朱美
- 「よろしい。それじゃあ、行きましょう」
朱美は満足そうにうなずき、微笑みながら先に歩いていった。
- 剽夜
- 「ぴぽぱぽ。う〜む、すでに手が覚えてしまっている」
- 竜胆
- 『はい。豊秋です』
- 剽夜
- 「はい、更毬です。実はだな、そういうわけなんだ」
- 竜胆
- 『どーいう訳か言っていただかないとわかりません(笑)」
- 剽夜
- 「本当は今日、そっちにエヴァを見に行くつもりだったん
だが、急用が思い出してしまってだな」
- 竜胆
- 『急用を思い出す、でしょ(笑)」
- 剽夜
- 「そういう噂もあるな。というわけで、今日は行けなくな
ってしまったのだ。うう、私の可愛い使徒ちゃん(嘘泣)」
- 竜胆
- 『んじゃ、今日は晩ご飯もないのね』
- 剽夜
- 「うむ、悪いが自炊してくれ(笑)でわ、さらばだ」
- 竜胆
- 『ほいほい(がちゃ)』
- 剽夜
- 「(がちゃ)うう、私の使徒ちゃん……」
- 朱美
- 「まだ言ってる……(嘆息)」
- *1
- エヴァとはTVアニメのエヴァンゲリオンのこと。水曜日
に放映されるのだが、剽夜の住む奈良では映らないので、あきりんの家に毎週木曜日にビデオを見に行ってるわけである。
- *2
- 朱美の母が更毬家の当代なのだが、失踪していないため
朱美が代行を務めているわけである。
- *3
- 剽夜はその朱美の補佐を務めているので、肩書きとして
は「更毬家当代代行補佐」となる。全部書けばまるっきりのしたっぱである。
- 剽夜
- 「ところで、依頼内容は?」
- 朱美
- 「依頼人は南波霞、27歳女性。場所はこの近くのマンショ
ンの2DKの一室である。現象としては2カ月ほど前から、毎日のようにポルターガイスト、ラップ音、発火現象が起きる。依頼内容はそれらの超常現象の除去」
- 剽夜
- 「そこは遠いのか」
- 朱美
- 「いや、ここよ」
朱美が指し示したところには、一見普通の8階建てのマンションが建っていた。
- 剽夜
- 「風水的に良くないなぁ」
- 朱美
- 「そう? 流れを引き入れるという点では良いと思うけど
なぁ」
- 剽夜
- 「こうも人の意識まで引き入れると、つくも神がいっぱい
できるではないか。たちの悪いものもな」
- 朱美
- 「そう言われれば、そうだね。今回の件もその辺が絡んで
いるのかなぁ?」
- 剽夜
- 「断定は出来ないけど、可能性は高いんじゃないかな。
まぁ、とりあえず、部屋に行こうか」
- 朱美
- 「そうだね。行こっ」
部屋は5階にあった。朱美がポケットから鍵を取り出して、鍵を開ける。
- 剽夜
- 「依頼人の立ち会いはないのか?」
- 朱美
- 「恐くて、部屋に近づきたくもないんだって」
- 剽夜
- 「まぁ、仕方がないわな」
朱美はゆっくりとドアを開けた。ドアの隙間から濃い気が流れ込んでくる。
- 朱美
- 「これはすごいわね」
- 剽夜
- 「まったくだ。これだけのものなら、原因の場所の特定は
困難だな」
- 朱美
- 「仕方がないから、入って調査しましょう。はい、これ、
耐火の符ね」
- 剽夜
- 「ありがと。気をつけるんだぞ」
- 朱美
- 「サポートはお願いね、剽夜兄ちゃん」
朱美が靴を脱いで部屋の中にはいり、電灯をつける。部屋には小物が散乱している。
- 朱美
- 「結構、重いものまで動かせるみたいね」
朱美のその言葉に対応するがごとく、部屋の人形や、小皿などが動き出す。
- 剽夜
- 「来たようだな……。風神の名において命ずる。我が名を
持って我と朱美に風の守護のあらんことを。ミサイルプロテクション!」
- 朱美
- 「あのぉ、ここはファンタジーの世界じゃないんだけどなぁ。
剽夜兄ちゃん。(^_^;)」
- 剽夜
- 「良いではないか、気に入ってるんだから。こんな高レベ
ルの呪文、TRPGではめったに使えないからな」
部屋の小物が朱美を襲うが、見えない竜巻に当たったかのごとく、端にはねとばされていく。
- 朱美
- 「さて。どこかなぁ」
朱美はそう言いながら懐から呪符を4枚取り出した。そのとき。
- 朱美
- 「きゃぅ」
いきなり、朱美の服が凍り付いて、崩れさる。(さーびす。さーびすっ)
- 剽夜
- 「ヅェリグォス!」
剽夜が苦しげな表情で一言唱えると、朱美の周りに張り付いていた霜が融け去った。
- 剽夜
- 「ぜい、ぜい。大丈夫か? まったく。発火能力があるん
だから、冷気による攻撃があるとは考えなかったのか?」
- 朱美
- 「ごめんなさい」
- 剽夜
- 「ワンワードスペルは疲れるんだから、これっきりにして
くれよ。で、居場所は解かったのか?」
- 朱美
- 「直接攻撃をくらえばね。そこよ」
朱美は大きく腕を振ると、その手の中から飛び出した4枚の呪符が部屋の片隅のタンスの周りを囲んだ。朱美がタンスに近づき、一番上の引き出しを開けるとそこにはアクセサリーがいっぱい並んでいた。
- 朱美
- 「この子ね」
朱美はそうつぶやくと、一枚の呪符を取り出し、指輪の箱に張り付けた。
- 朱美
- 「剽夜兄ちゃん、この子の声を聞いてもいい?」
- 剽夜
- 「また、そういう危険を冒すぅ。まぁ、いいけどね」
- 朱美
- 「いざというときはお願いね」
しかたがないなぁ、という表情をしている剽夜を見ながら、朱美は指輪の箱を開ける。指輪からたくさんの『想い』が朱美へと流れ込む……。
しばらくした後、朱美はそっと、その指輪を自分の指にはめた。
- 剽夜
- 「そういうことですか。道具の性は悲しいね」
- 朱美
- 「この子はただはめてもらいたかっただけなのにね」
- 剽夜
- 「まぁ、その意志表示にしては行きすぎてたがな」
- 朱美
- 「くしゅん」
- 剽夜
- 「塗れたままだと風邪引くぞ。ほれ、このタオルでまず体
をふきな」
そう言うと、剽夜はいつも肩に下げている重そうな鞄からタオルを取り出した。
- 朱美
- 「ありがとう。でも、どうして持ってるの?」
- 剽夜
- 「いや、なぁに、あきりん家でときめもをしようと思って、
お泊まりの道具を持ってきたのだ。はい、一応着替えもあるからな」
- 朱美
- 「ありがとう。とっても用意が良いね」
- 剽夜
- 「策士たるもの、いつも用意は怠らないものだよ」
- 朱美
- 「(くすくす) 本当、剽夜兄ちゃんがいてくれて助かった。
今日はとってもありがとう」
- 剽夜
- 「なに、いいってことよ。しかし……エヴァ……。うるう
る」
- 朱美
- 「もうっ」
そこには、先ほどの争いの跡は消え失せ、ただほのぼのとした雰囲気が広がっているのみであった。
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